【判例紹介】再転相続で「二度目の放棄」を認めた東京高裁決定|戸塚区・泉区・栄区の不動産登記や相続手続きは、司法書士安西総合事務所にお任せください。

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再転相続と相続放棄
― 東京高裁が示した「もう一度放棄できる」判断とは?

再転相続とは?
相続には「再転相続(さいてんそうぞく)」という少し聞き慣れない仕組みがあります。
これは、相続人が相続を承認するか放棄するかを決める前に亡くなってしまった場合、その相続人の地位をその子や配偶者などが引き継ぐことをいいます(民法第916条)。
つまり、「相続するかどうか」を決める権利までも相続されるのです。

たとえば、Aさんが亡くなり、兄のBさんが相続人になりました。
ところがBさんが、相続を承認するか放棄するかを決めないまま亡くなってしまった場合、Bさんの妻や子どもたちが再転相続人としてAさんの相続を引き継ぐことになります。

■ 東京高裁が扱った「二度目の放棄」事件

令和6年7月18日の東京高等裁判所決定(令和5年(ラ)第1976号)は、この再転相続をめぐる珍しい事例です。
家庭裁判所(原審)は「一度放棄していれば、もう改めて放棄する必要はない」として、相続放棄の申立てを却下しました。
しかし、東京高裁はこれを取り消し、「もう一度の相続放棄を受理する」という判断を示しました。

■ どういうケースだったのか?

A → B → H と相続が連鎖し、3世代にわたる「再転相続」が発生した

事例を整理して説明します。
@A死亡
【第1次相続開始】
Aが亡くなり、相続人は兄のBのみ。Bは相続を承認・放棄しないまま年月が経過しました。

AB死亡
【第2次相続開始】
Bが死亡し、相続人は妻Cと3人の子(F・G・H)でした。
Aに債務があることが後に判明したため、妻C及び子F・Gは、「Aの再転相続人」としてAの相続放棄を申し立て、家庭裁判所で受理されました(これが第1の放棄)。

BH死亡
【第3次相続開始】
故Bの子Hは、Aの相続を放棄しないまま死亡しました。
そのため、Hの相続人(妻と子)が、Aの相続放棄を申し立て、いずれも受理されました。

C C(故Hの母)が、「もう一度放棄」を申し立て
Cは、Hの母であり、Hの一次相続人がAの相続を放棄した結果、Cに「H経由の再転相続人」という新しい地位が生じました。
そこで、Cは「Hの立場を引き継いだ再転相続人」として、改めてAの相続放棄を申し立てました(これが第2の放棄)。

■ 家庭裁判所の判断
― 「もう放棄しているから不要」

東京家庭裁判所立川支部は、Cの再度の申述を却下しました。理由はこうです。

− CはすでにBを通じてAの相続放棄をしており、その放棄が受理された時点で相続人の地位は消滅している。したがって、H経由で改めて放棄する必要はない。 −
つまり、家庭裁判所は「相続放棄は一度限り」と判断したといえます。

■ 東京高裁の判断
― 柔軟な解釈で受理を認める

しかし、Cはこれを不服として抗告。東京高等裁判所は、家庭裁判所の決定を取り消し、Cの放棄を受理すると判断しました。

1. 相続放棄の「受理」と「効力」は別問題
相続放棄の申述が受理されても、放棄の効力が実体的に確定するわけではありません。 一方、家庭裁判所が却下してしまえば、その人は放棄を主張できなくなります。 したがって、「却下すべきことが明白でない限り、まず受理すべき」というのが東京高裁の立場といえます。

2. 「二重の相続人地位」を持つ可能性
Cは故Bの妻として(B経由)、故Hの母として(H経由)という二つの経路でAの再転相続人になり得ます。 最初の放棄はB経由に関するものであり、「同じAの相続」であっても、法的に異なる地位から放棄することは理論上あり得るとしました。

3. 家庭裁判所の審査は「明白な場合のみ却下」
高裁は、家庭裁判所の役割を「実体判断ではなく形式審査」に限定しました。 相続放棄の手続では、申述人の地位に合理的な疑いがある限り、 まず受理しておき、後で実体的に争う余地を残すべきだとしています。

■ この決定の意義
・相続放棄は、再転相続のように経路が複雑な場合、複数回の申述があり得る。
・家庭裁判所は、明らかに不適法でない限り受理すべきである。
・放棄の受理と効力確定は別。形式審査と実体判断を分けて考える必要がある。

■ 再転相続 ―実務的なポイント

まず、相続放棄には「熟慮期間」と呼ばれる3か月の期限があります(民法915条)。
この期間は、「自分に相続が開始したことを知った時」から数え始め、
原則、その期間内に相続を放棄するかを決めなければなりません。

一方、再転相続が発生した場合は、少しルールが変わります。
中間の相続人(たとえばB)が、承認・放棄をしないまま亡くなったとき、
その相続人(B)の相続人(Bの妻や子)は、Bが持っていた「Aの相続をどうするか」という選択権を引き継ぎます(民法916条)。
このときの3か月のカウントは、単にBの死亡を知った時ではなく、
「Aの相続を自分が引き継ぐ立場にある」と認識した時が起算点になるのが実務上の理解です。
つまり、第1相続と第2相続の熟慮期間はそれぞれ別個に進行するとする見解です。

また、再転相続人が複数いる場合(例:Bの妻と子どもたち)は、
それぞれが独立して放棄や承認を選択できます。
その放棄の効力は申述をした本人にのみ帰属し、放棄した人だけが「最初から相続人でなかったもの」と扱われ、
他の相続人には影響しません。

このように、再転相続では
@ 熟慮期間の起算点が「再転相続人それぞれの認識時点」から始まること、
A 複数の再転相続人の判断が互いに独立していること、
の2点を押さえることが、実務上とても重要です。

以上

(出典:東京高等裁判所令和6年7月18日決定・判例タイムズ1532号75頁/判例時報2624号39頁)

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