相続・遺言・遺産承継
相続人の判定〜胎児の権利〜
民法
第二章 相続人
(相続に関する胎児の権利能力)
第866条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
民法の規定では、私権の享有は、出生に始まる(民法3)とされ、つまり、人は生まれて始めて権利能力を有することになります。しかし、相続に関して、胎児は、すでに生まれたものとみなされます(※)。つまり、出生を待たずして、胎児には相続権があるということになりますが、実際の相続のケースでは、どのように考えたらいいのでしょうか。
以下の事例について、若干の検討をしてみたいと思います。
(※)民法は、「損害賠償請求権」、「相続」、「遺贈」の3つについて、胎児の権利能力を認めています。
第二章 相続人
(相続に関する胎児の権利能力)
第866条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
民法の規定では、私権の享有は、出生に始まる(民法3)とされ、つまり、人は生まれて始めて権利能力を有することになります。しかし、相続に関して、胎児は、すでに生まれたものとみなされます(※)。つまり、出生を待たずして、胎児には相続権があるということになりますが、実際の相続のケースでは、どのように考えたらいいのでしょうか。
以下の事例について、若干の検討をしてみたいと思います。
(※)民法は、「損害賠償請求権」、「相続」、「遺贈」の3つについて、胎児の権利能力を認めています。
相続人の判定〜妻の妊娠中に夫が死去〜
事例
懐胎中の妻のWさん(35歳)が、亡夫Aさんの相続に関し、専門家のところへ相談に行ったところ、専門家から次のような回答がありました。なお、Wさんと亡Aさんとの間に子はいないとします。
W(妻35歳/相談者)=====A(亡夫)
|
子なし
専門家の回答
Aさんの相続人は、Aさんの両親とWさんであるから、Aさんに遺言書がなければ、Wさんは、Aさんの両親との間で遺産分割協議をする必要があります。
懐胎中の妻のWさん(35歳)が、亡夫Aさんの相続に関し、専門家のところへ相談に行ったところ、専門家から次のような回答がありました。なお、Wさんと亡Aさんとの間に子はいないとします。
W(妻35歳/相談者)=====A(亡夫)
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子なし
専門家の回答
Aさんの相続人は、Aさんの両親とWさんであるから、Aさんに遺言書がなければ、Wさんは、Aさんの両親との間で遺産分割協議をする必要があります。
相続人の判定〜胎児が代襲相続人〜
事例
胎児には代襲相続人となる権利もあるため、次のようなケースも考えられます。
Aさんが亡くなったあとに、Aさんの父Sさんが死亡し、Sさんの相続人として、Aさんの弟Bさん(Sさんの二男)が自分が唯一の相続人であると主張してきた。
S(被相続人)
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| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
B(二男) A(死亡)
胎児には代襲相続人となる権利もあるため、次のようなケースも考えられます。
Aさんが亡くなったあとに、Aさんの父Sさんが死亡し、Sさんの相続人として、Aさんの弟Bさん(Sさんの二男)が自分が唯一の相続人であると主張してきた。
S(被相続人)
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B(二男) A(死亡)
相続人の判定〜胎児がある場合の遺産分割〜
上記ケースにおいては、いずれも相続人の判定に注意する必要といえます。
すなわち、Aさんに子がいなかったからといって、直ちに第二順位の両親(直系尊属)がその相続人になるとは限らず、妻WさんがAさんの子を懐胎している事実があれば、相続人の判定は異なってきます。
同様に、義父Sさんの相続手続に関しては、Aさんの胎児にも相続権があることから、Sさんの二男が遺産を総取りできるといった結論にはならないと考えます。
なお、相続において、胎児はすでに生まれたものとみなすとする規定の解釈として、戦前の古い判例では、胎児が生きて生まれることを停止条件して、生まれたときに相続開始時に遡って権利能力が認められるとしています。一方、有力な学説は、胎児の時点で権利能力を認め(※)、ただ、死亡して生まれた場合には権利能力が失われるといった解除条件説が有力とされています。
しかし、いずれの説にしても、胎児が無事に生まれてくるかどうかは、出生時までわからないことであり、また、相続開始から10か月程度で出生確認がでいることなどから、胎児がある場合において遺産分割協議が必要なときは、とりあえず出生まで遺産分割協議を待つことが現実的といえます。
以上です。
(※)この場合において、Wが胎児の法定相続人の立場で遺産分割協議を行うことは可能かといった問題がありますが、一般的には不可と解されています。
以上:参考文献「判例民法11相続」
「遺産分割実務マニュアル第四版 東京弁護士会 他」
すなわち、Aさんに子がいなかったからといって、直ちに第二順位の両親(直系尊属)がその相続人になるとは限らず、妻WさんがAさんの子を懐胎している事実があれば、相続人の判定は異なってきます。
同様に、義父Sさんの相続手続に関しては、Aさんの胎児にも相続権があることから、Sさんの二男が遺産を総取りできるといった結論にはならないと考えます。
なお、相続において、胎児はすでに生まれたものとみなすとする規定の解釈として、戦前の古い判例では、胎児が生きて生まれることを停止条件して、生まれたときに相続開始時に遡って権利能力が認められるとしています。一方、有力な学説は、胎児の時点で権利能力を認め(※)、ただ、死亡して生まれた場合には権利能力が失われるといった解除条件説が有力とされています。
しかし、いずれの説にしても、胎児が無事に生まれてくるかどうかは、出生時までわからないことであり、また、相続開始から10か月程度で出生確認がでいることなどから、胎児がある場合において遺産分割協議が必要なときは、とりあえず出生まで遺産分割協議を待つことが現実的といえます。
以上です。
(※)この場合において、Wが胎児の法定相続人の立場で遺産分割協議を行うことは可能かといった問題がありますが、一般的には不可と解されています。
以上:参考文献「判例民法11相続」
「遺産分割実務マニュアル第四版 東京弁護士会 他」