妹の死後に始まった、父の不動産をめぐる想定外の展開
「妹には借金があったので、関わりたくなくて相続放棄をした・・・」
そんな判断が、まさか亡父名義の不動産の相続登記を難しくしてしまう原因になるとは――。
本記事では、遺産をめぐる「とりあえず相続放棄」が思わぬ結果を招いた実例をご紹介します。
【事例紹介】妹の訃報と、相続放棄の決断
Aさんは、現在、亡き父親名義のマンションに一人暮らしをしています。Aさんは、父が5年前に亡くなった後、疎遠であった妹と遺産分割の話し合いはできず、マンションの名義はそのままでした。
そんな中、妹が亡くなったという知らせが届きました。妹には子どもがいましたが、少額だけど借金があるとの理由で相続放棄をしていたとのこと。Aさんも「関わりたくない」と考え、専門家に依頼して、急いで妹の相続を放棄しました。
これで一安心……と思いきや、
ここからが本当の問題の始まりでした。
妹の相続放棄のあとに起きた、登記の壁
Aさんは父の相続人であった妹が亡くなり、かつ、妹の相続人は全員相続放棄をしたことから、マンションは、全部自分の物になったと理解して、自分で法務局へ行き、相続登記を申請しました。
しかし、後日、法務局から「登記手続の取下げをお願いしたい。」と連絡が―
いったい何が起こったのか。
なぜ、登記がスムーズに進まなかったのか?
父の死亡によって、マンションは法定相続によりAさんと妹が1/2ずつの共有となりました。そして、遺産分割協議をする前に妹が亡くなったので、妹の持分1/2は、相続人へ引き継がれるはずでしたが、その相続人が相次いで全員相続放棄をしたため、「妹の相続人が誰もいない=相続人不存在」の状態となりました。
この結果、マンションの共有持分1/2が宙に浮いてしまったのです。
相続放棄の判断は慎重に!
借金の話を聞いて相続をためらう気持ちは自然なことですが、もしAさんが相続放棄せず妹の相続人となっていれば、父名義のマンションをすべて相続登記する道もあったのです。
相続放棄の前に考えるべきポイント
- 相続放棄の期限は「相続を知った日から3ヶ月以内」
- 遺産分割未了の不動産があるかを事前に確認
- 遺産の内容を専門家に調査依頼することも検討
- 「関わりたくない」だけで放棄するのは危険
相続放棄は最終手段。勢いや感情で決断する前に、必ず専門家に相談を。
おまけ情報:相続人不存在になるとどうなる?
妹の持分が相続人不存在と認定されると、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。公告や債権者対応、特別縁故者への分与の審判などの手続きを経て、最終的には他の共有者(この場合はAさん)に持分が帰属する可能性があります(民法255条)。
ただし、この手続きには相応の期間と費用がかかり、予期せぬ手間が生じます。放棄しなければ避けられた苦労とも言えるでしょう。
「とりあえず放棄」の判断が、後の相続手続きに影響することも。相続は“早めに・慎重に”が鉄則です。