家族信託の実務

遺言と家族信託

(1)遺言と民事信託の使い分け

☆民事信託には「遺言代用信託」と呼ばれる信託があります☆
 遺言代用信託をご存じでしょうか。親と子の信託契約によって、親が子に対し特定の財産を信託譲渡します。親の死亡を信託の終了事由とし、その際に信託財産を承継する人物をあらかじめ信託契約の中で指定しておきます。これにより、親の生前中は、子が信託財産を適正に管理又は処分し、親の相続発生後は、特定の相続人が信託財産を当然に承継することができます。このような信託を遺言代用信託といいます。
 遺言代用信託を活用することで、遺言の作成と同じ効果を発生させることができます。

☆遺言と信託の使い分けが重要です☆
 では、遺言代用信託を活用すれば、遺言の作成は不要と考えていいのでしょうか。親が遺言代用信を使って、自宅とアパートを信託財産とし、農地や株式などの財産は親名義のままで保有していたところ、親に相続が開始した場合を考えてみます。自宅とアパートについては、信託契約の内容に従い、特定の者へ承継されます。この際、信託契約に関与していない相続人の同意や協力は、原則、不要です。一方、農地や株式などの財産については、遺言、または相続人全員による遺産分割協議によって、承継者を決定する必要があります。
 信託の実務では、全財産を信託財産とすることは子である受託者の負担が重く、実用的ではありません。したがって、民事信託を活用する場合であっても、信託しない財産については、必要に応じて遺言の準備を検討する必要があります。

(2)遺言と民事信託の優先順位について


 次に、同じ財産が遺言書と信託契約書の両方に記載されていた場合の優先順位を考えてみたいと思います。親と長男との間で、親名義の自宅を信託財産とする信託契約を締結したところ、「自宅は長女に相続させる。」とする公正証書遺言がすでにあった場合、自宅については、信託契約と遺言とどちらの内容が優先するのでしょうか。
 これに関しては、自宅を信託財産とする信託契約の締結行為が、前の遺言の内容を撤回したものとみなされることになります。自宅の遺言承継はその部分において無効となり、したがって、信託契約の内容が優先することになります。なお、後日、信託契約が撤回され、自宅が親の名義に戻ったとしても、原則、前の遺言の効力は回復しないものと考えられます(民法1025条)。
 実務では、公正証書で信託契約の締結と遺言の作成を同日に行うことがよくあります。この場合、信託財産は、遺言の対象財産とならないことを十分に理解する必要があります。また、信託契約、遺言のいずれにおいても、承継者が将来、その権利を放棄したり、あるいは、すでに死亡していたりすることも想定したうえで、矛盾が生じないような丁寧な作り込みが重要となります。

 

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