不動産登記の「抹消登記」と「更正登記」
―どう使い分けるべきか
相続や売買による所有権の移転登記をした後に、登記の内容が実体関係と異なっていることが判明することがあります。
このような場合、訂正(是正)方法として、「抹消登記」と「更正登記」のいずれかを選択することになりますが、その使い分けは非常に重要です。
■ 更正登記とは
更正登記とは、更正の前後を通じて「登記としての同一性」が維持される場合にのみ認められる訂正方法です。
ここで扱う更正登記とは、実体の一部のみが誤って登記された場合を指します。
例えば、共有関係が正しく反映されていない場合など、登記の権利関係の「一部分」の修正が可能なときに限られます。
更正登記が認められる事例
- ★本来は A・Bの共有名義とすべきところ、誤ってB単独名義の登記がなされた場合
→ B 単独登記をA・B共有登記へ更正することができます。 - ★A・B持分各1/2とする共有名義とすべきところ、誤ってA持分2/3、B持分1/3とする登記がなされた場合
→ A・B持分を1/2ずつとする持分の更正登記が認めれます。
このように、登記の名義人の範囲や持分が「部分的に」誤っているだけで、
更正後も「同じ登記の延長線上にある」といえる場合に更正登記が認められます。
■抹消登記とは
抹消登記とは、誤った登記全体を一度消去し、正しい登記をやり直すための手続です。
完全に実体と合致しない登記の是正方法は、通常、抹消登記を用います。更正登記のように「部分的修正」ができない場合に用いられます。
抹消登記が必要となる事例
- ★本来はA名義で登記すべきところ、誤ってB名義で登記してしまった場合
→ B 名義の登記は実体に合致しないため、いったん全部を抹消し、
A名義で登記し直す必要があります。 - ★相続開始前に、AがBに不動産を仮装贈与し、AからBへ不正な所有権の移転登記がなされたあと、Aが死亡しBとCが相続人である場合 →この場合の登記原因は、法律上無効な通報虚偽表示であって、それ自体が不実の登記であるとして、抹消登記をする必要があります(東京高裁平成8年5月30日判決)
なお、登録免許税は、更正登記も抹消登記も不動産の数一つにつき、1,000円となります。
■ 数次相続で更正登記が認められなかった事例
事案の概要
登記名義人のA が死亡(第1相続)し、Aの相続人 B も死亡(第2相続)しました。
ここでは、Aの相続人をXとB、Bの相続人をYとします。
XとBの間でAの遺産分割協議がなされ、結果、Bが単独で相続したとして、
「A (原因:年月日B相続 年月日相続)→ Y」への数次相続の登記が
行われていました。
ところが、Aの相続について、Bが単独で相続したとする遺産分割協議の成立が
争われており、登記の前提が崩れたため、X が登記の是正を求めたものです。
■ 最高裁の判断
― この事案で更正登記は不可能
最高裁は次のように判示しました
。
本件で問題となったのは、誤った相続関係を前提とした「数次相続登記」を、
更正登記によって修正できるかどうか、という点でした。
最高裁は、この誤った登記は更正登記では是正できず、全部抹消が必要であると明確に判示しました。
Xと、B(相続人Y)の遺産共有と考えられます。そうすると、Yの単独名義となっている登記は
更正登記の対象として、Y単独 ⇒ X、Yの共有へと更正登記が認められそうです。
しかし、最高裁は以下のように結論づけました。
最高裁のここの判旨をもう少しまとめてみて
3 思うに,更正登記とは,「既に存在する登記につき,その当初の登記手続において錯誤又遺漏があったため,登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に,その不一致を解消せしめるべく既存登記の内容の一部を訂正補充する目的をもってされる登記」であるところ,この更正登記が認められるのは,
(1)錯誤又は遺漏があったため,登記と実体関係の間に原始的な不一致があること,
(2)更正の前後を通じて登記としての同一性が認められること,
の2要件が具備される場合に限られる(幾代通著不動産登記法{第4版}184p)。
そこで,本件事案について,上記(2)の要件たる同一性が認められるかどうかを検討してみると,その同一性は認められないと言える。
何故ならば,更正前の所有者(被上告人Y)が,本件事案につき遺産分割協議が成立していない以上,更正後の所有者と全く異なる場合となるからである。
即ち,本件の場合,被相続人(A)の相続人は,原判決別紙相続関係説明図のとおり,上告人外5名であって,本件の場合遺産分割協議が成立しておらず,しかも本件訴訟に相続人の全員が参加していない(不参加者4名あり)のだから,本件各土地について,被上告人が「単独相続」するということはありえないことだからである。
そうすると,本件各土地については,「数次相続を原因」として被上告人名義に直接所有権移転登記をすることができなかったものであるということになる(最高裁平11(オ)773号,平12.1.27第一小法廷判決参照)。
4 結局のところ,「更正登記手続をするべき」との趣旨を示した第2審判決は,本件各土地について,唯々単に「更正登記をすべし」との判断を下したのみであって,はたして更正登記が可能であるかについて全くふれず,その可能の可否の理由を付さずに判断したことは,理由を付さなかったことの違法があると言わねばならない。
5 要するに,本件事案は,第1審判決が示したように,本件各土地になされた被上告人の当該所有権移転登記は,全て(全部)抹消すべしと下した判断こそが妥当且つ適法な結論といえるものである。
よって,ここに上告を提起した次第である。
司法書士安西総合事務所
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