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「胎児に相続権はありますか。」

 民法の規定では、私権の享有は、出生に始まる(民法3)とされ、人は生まれて始めて権利能力を有することになります。しかし、相続に関して、胎児は、すでに生まれたものとみなされるため(※)、胎児は、出生を待たずして相続権があるということになります。

(※)民法は、「損害賠償請求権」、「相続」、「遺贈」の3つについて、胎児の権利能力を認めています。

事例@
 懐胎中の妻のWさん(35歳)が、亡夫Aさんの相続に関し、専門家のところへ相談に行ったところ、次のような回答がありました。なお、Wさんと亡Aさんとの間に子はいません。

W(妻35歳/相談者)=====A(亡夫)
            |
           子なし

ある専門家の回答
 Aさんの相続人は、Aさんの両親とWさんであるから、Aさんに遺言書がなければ、Wさんは、Aさんの両親との間で遺産分割協議をする必要があります。

問題点
 Wさんの胎児は、Aの相続人にならないのか?


事例A
  胎児には代襲相続人となる権利もあるため、次のようなケースも考えられます。
 Aさんが亡くなったあとに、Aさんの父Sさんが死亡しました。義父Sさんの子は、長男Aと二男Bの二人です。義父Sさんの相続人はだれになるのでしょうか?

             S(被相続人)
             |
         | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
       B(二男)    A(死亡)
                   |
                  子なし

解説

 事例@Aにおいては、いずれも相続人の判定に注意が必要といえます。すなわち、事例@においては、Aさんに子がいないからといって、直ちに第二順位の両親(直系尊属)が相続人になるとは限らず、相続開始時に妻WさんがAさんの子を懐胎している事実があれば、Aさんの相続人は、妻Wさんとその胎児となります。
 事例Aにおいては、義父Sさんの相続手続に関して、Aさんの胎児にも相続権があることから、A胎児及びBさんがSさんの相続人となります。
 
遺産分割協議はどうするか。

 では、上記事例@及びAにおいて、遺産分割協議はどのようにすればいいのでしょうか?相続において、胎児はすでに生まれたものとみなすとする規定の解釈として、戦前の古い判例では、胎児が生きて生まれることを停止条件して、生まれたときに相続開始時に遡って権利能力を認めるとしています(停止条件説)。一方、有力な学説は、胎児の時点で権利能力を認め(※)、ただ、死亡して生まれた場合には権利能力が失われるといった解除条件説が有力とされています。
 しかし、いずれの説にしても、胎児が無事に生まれてくるかどうかは出生時までわからないことであり、また、相続開始から10か月程度で出生確認がでいることなどから、胎児がある場合において遺産分割協議が必要なときは、とりあえず出生まで遺産分割協議を待つことが現実的といえます。

(※)この場合において、母が胎児の法定相続人の立場で遺産分割協議を行うことは可能かといった問題がありますが、一般的には不可と解されています。



以上です。

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民法
第二章 相続人
(相続に関する胎児の権利能力)
第866条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

以上:参考文献「判例民法11相続」
「遺産分割実務マニュアル第四版 東京弁護士会 他」


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