合同会社の設立と定款の注意点
― 社員死亡時に備える承継規定とは? ―

 昨今、設立費用や維持コストの面での利点から、一人で設立する合同会社(一人合同会社)が増えています。しかし、その反面、唯一の社員が死亡した場合のリスクが見落とされがちです。
 この記事では、社員の死亡に備えた定款の工夫や、旧法との違い、一人合同会社特有のリスクをわかりやすく解説します。

社員死亡と地位の承継

持分会社(合同会社・合名会社・合資会社)において、社員が死亡した場合にその地位を相続人が承継するかどうかは、経営の継続性相続実務に大きな影響を与える問題です。


旧商法のもとでは、たとえば合資会社の有限責任社員が死亡した場合、その相続人が当然に社員として地位を引き継ぐものとされていました。これは、有限責任社員は、原則、業務執行権を持たず、他の社員に与える影響が小さいと考えられていたからです。

しかし、現行の会社法では、すべての社員(有限・無限問わず)が原則として業務執行権を持つため、死亡した社員の相続人が自動的に地位を引き継ぐことは、他の社員の意思決定に不測の影響を及ぼすおそれがあります。


このため、会社法では、社員の死亡は「法定退社事由」とされ(会社法第607条)、その地位は原則として相続人に承継されません。代わりに、相続人は退社に伴う持分払戻し請求権を取得するにとどまります。


ただし、定款に社員の死亡による相続人への地位の承継を定めておくことで、相続人が社員の地位を承継することが可能です。この点が、定款の定めの有無によって将来の対応に大きな差を生む根拠となります。

一人合同会社のリスクと清算人問題

一人合同会社の設立は手軽で人気がありますが、唯一の社員が死亡すると、社員ゼロとなり、会社法第641条第4号により自動的に解散することになります。


清算人はどう決まる?

解散後は、次に掲げる者が清算人となります(会社法第647条)。

  • ・定款で定める者、または社員(業務を執行する社員を定款で定めた場合にあっては、その社員)の過半数の同意によって定める者
  • ・これらにより清算人が定まらない場合は業務執行社員

しかし、一人合同会社で社員が死亡すると、社内で清算人を選任することができず(※設立時の定款に清算人が指定されてるケースは稀)、法定清算人も存在しない状態になります。

このような場合、最終的には相続人債権者などの利害関係人が、裁判所に清算人選任の申立てを行う必要があり、その分の時間的・金銭的負担(報酬等)が発生します。

相続人が社員になる定款の定め

こうしたリスクを回避するには、たとえ承継の意思がなくても、社員が死亡した場合の地位を相続人へ承継させる規定を定款に設けておくことが効果的です。

定款の定めによって、相続人が社員となれば、次のような柔軟な選択が可能になります。

  • ・会社を継続する
  • ・事業を第三者へ譲渡する
  • ・会社を解散し、清算人を選任する

社員死亡時への定款の備え

  • 現行法では、社員の死亡は退社となり、定款で別段の定めがない限り、社員の地位は、相続人へ承継されません。
  • 特に一人合同会社では社員ゼロは、即解散となり、社内で清算人を決定できません。
  • この場合、利害関係人が裁判所に清算人選任の申し立てをする必要がなり、時間・費用が発生します。
  • 定款に承継条項を設けることで、相続人が対応できる体制を整えられます。

これから合同会社を設立予定の方・すでに設立済みの方へ

合同会社の設立は簡単で自由度が高い分、将来のリスクへの備えが不十分なまま進めてしまうケースも少なくありません。
特に一人合同会社を設立される方、または定款に社員承継の定めがない方は、いざというときの混乱を避けるためにも、今一度、定款の見直しをご検討ください。

相続人に会社を引き継がせる意思がなくても、円滑な後処理のために、定款による備えは有効な選択です。

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