相続・遺言・遺産承継

遺産分割協議による相続登記

テーマ

後見人弁護士が遺産分割協議書に押印する場合の印鑑について


(事例)

 被相続人Aさんの遺産分割協議に関し,相続人の一人Sさんが成年後見制度を利用していたため,後見人であるN弁護士がSさんに代わって,遺産分割協議書に署名押印をしました。
 Sさんの後見登記事項証明書には,N弁護士が業務で使用する通称名及び事務所の住所が登録されていたため,N弁護士は同協議書に通称名及び事務所住所を署名し,押印は,弁護士会に届け出ている印鑑(職印)で押印しました。
 遺産分割協議書には,後見登記事項証明書と,所属弁護士会発行の印鑑証明書が添付されていました。
 これらの書類で,相続による所有権の移転登記は受理されるのかとの相談を受けました。



(問題点)

 上記事例の問題の一つは,弁護士会発行の印鑑証明書で登記申請が受理されるのかということですが,まず,不動産登記令第16条第2項では,申請書に添付する際の申請人の押印した印鑑に関する証明書の種類を,住所地の市町村長(特別区の区長を含む・・<以下省略>)の作成するもの又は登記官が作成するものにそれぞれ限定しています。たとえば、売買や贈与による所有権の移転登記、又は抵当権等の担保権の設定登記を申請する際に添付する申請人の印鑑証明書は,申請人が自然人なら住所地の市区町村長の発行するもの,法人なら登記官の発行するものになります。

 一方で,遺産分割協議書を添付して相続による所有権移転の登記を申請するには、申請人を除く協議書に押印した者の印鑑の証明書の添付が必要ですが(昭30.4.23、民事甲第742号民事局長通達参照),この場合の印鑑証明書の種類については特に制限が設けられていません。しかし,わたしが某登記所に本事例を照会してみたところ,弁護士会発行の印鑑証明書でも登記可能とする規定がないからダメと回答がありました。理由付けが釈然としませんが,後見人弁護士と相談した結果,今回は,協議書には後見人弁護士の自宅住所及び戸籍氏名を署名し,印鑑は個人の実印で押印することで済ませました。
 この場合,後見登記事項証明書との繋がりが不明確なので,登記の際には弁護士会の発行する証明書(後見人弁護士の通称名と戸籍氏名,事務所住所と自宅住所がそれぞれ併記されているもの)を併せて添付することになります。印鑑証明書は,市区町村長発行のものを添付します。

 実務では,相続人の一人に法定代理人がついてるケースも珍しくありません。この場合,遺産分割協議には誰が参加するのか,誰の名前で署名し印鑑を押印するのか,判断に迷うこともあります。

以上です。

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